彼女がお城へ入るのを見届けてから、あげていた手をゆっくり下ろす。
「…どうやって彼女はこの国へ来たのかな」
もう、この国に必要な人間はいない
彼が…"アリス"が、最後の切り札
「それに、彼女には見えていないみたいだけど、ウサちゃんってば、一体どうしちゃったんだろうねぇ」
彼女の手につけられていた細いブレスレット。
恐らく元々は彼女の持ち物だったのだろう。
けれど、余程意識して見ないと気づかないようにされていた。
この国でそんなことが出来るのは、この国を作った白ウサギだけ。
あのブレスレットは、多分、彼女と世界を繋ぐもの。
あの子は、自分の世界を捨てて…ここへ来た。
役は揃っているのだから、そのまま彼女の世界へ返してしまえばいい。
――― けれど、それが出来ない
「わからないでもない…か」
あの子…の瞳は、誰かの瞳に酷似してる。
あの目に見つめられれば、どうしても誰かの顔が浮かぶ。
ただ、瞳の色が同じだけ…
それ以外は、どこも彼女に似ていない
…わかっていても、あの瞳が眩しく輝いている様子を見たら、どうしても、それを曇らせたくないと思ってしまう、願ってしまう。
「…やれやれ、僕もあの瞳にやられちゃったかなぁ」
「あら、それは誰の瞳のことかしら?」
背後から伸びて来た白い腕に抱きしめられながら、ゆっくり目を閉じる。
「それは勿論、今、僕を抱いてくれる貴女ですよ」
「私はまだ、あなたに顔を見せていないわよ?」
「見せていなくても、貴女の美しさは…その香りで充分伝わります」
腰に巻きついている白い手を取り、音を立てて指先に口づければ、その手が微かに震えた。
「願いはなんです」
「…わかっているでしょう?」
「わかっていても、その口から聞きたいんです」
指先一本一本に口づけながら、背後の人物の声を待つ。
言われなくてもわかるけれど、言われないと進めない。
想像通りの台詞が、甘い吐息と共に耳元に注がれ、OKの意味を込めて握っていた手に僅かに力をいれる。
「…お望みのままに、姫君」
「ふふ…じゃあ、行きましょう」
抱きしめられていた手は緩められても、絡めた指はそのままに…僕は、薄いドレスを纏った女性の後についていく。
歩きながら、一度だけ…背後にそびえ立つお城に目を向けた。
「…またね、」
僕の今日の宿は決まったよ。
今からは、この人のものだ。
でも、明日は…また、別のご主人様が必要になる。
だから…また、明日
その時も、その青い瞳に…僕を映して
Are you Alice? - blot. #08
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